被災時の安心・安全を支える 日本産科婦人科学会の災害対策
妊婦さん自身も災害への備えが大切
大地震、豪雨、台風など、日本ではどこに住んでいても突然、自然災害に遭遇する危険があります。日本産科婦人科学会では災害対策・復興委員会を中心に、日本産婦人科医会や他の関連学会とも協力しながら、大規模な災害時に迅速に妊婦さんや新生児を支援する体制を構築しています。災害時の周産期医療体制と、妊産婦さん自身が大災害に備えて知っておいたほうがいいことなどについて、日本産科婦人科学会災害対策・復興委員会委員で久留米大学医学部産婦人科学講座 講師の津田尚武先生にうかがいました。
小児周産期リエゾンを中心に被災妊産婦さんをサポート
ここ数年、日本各地で大規模な自信や水害による被害が毎年発生しており、妊娠中や出産直後に災害に見舞われることもあり得ます。そういった事態に備えて、日本産科婦人科学会は、大規模災害発生時に、災害対策復興委員会を中心に迅速に妊産婦さんを支援する体制づくりを進めています。
「災害対策・復興委員会が発足したのは、2011年の東日本大震災がきっかけです。16年からは国の事業として、災害時医療コーディネーターの産婦人科・小児科・新生児科版である災害時小児周産期リエゾン※の養成研修が開始され、日本産科婦人科学会もその養成研修に協力しています。産婦人科や新生児科、小児科の医師や助産師、看護師を対象に、毎年100人前後の小児周産期リエゾンを養成し、大規模な災害が起きたときには、全都道府県で災害時小児周産期リエゾンが活動できる体制が整ってきました」。津田先生は、そう解説します。
大規模な地震、水害などの災害発生時には、災害時小児周産期リエゾンが、都道府県庁の災害対策本部に入り、災害派遣医療チーム(DMAT)や自衛隊と連携して、搬送が必要な妊産婦さんや乳幼児を迅速に把握し、受け入れ先の医療機関と調整します。避難所などにいる被災妊産婦さんの支援や物資の搬送の調整も災害時小児周産期リエゾンの役割です。
「日本産科婦人科学会としても、災害発生時には日本産婦人科医会や関連学会と協力し、妊産婦さんや乳幼児の搬送、物資の供給・搬送など小児周産期リエゾンの活動をバックアップし妊産婦さんをサポートしています。また、現地医療機関が疲弊しないように全国から産婦人科医を派遣するのも、学会としての重要な役目です」
東日本大震災の際には、被災情報の共有・伝達がスムーズに進まなかったことで混乱が生じた面がありました。そういった反省点を踏まえて、日本産科婦人科学会では、大規模災害対策情報システム(PEACE)をウェブ上に構築して被災地の参加・新生児科医療機関の被災状況、周辺医療機関の受け入れ状況などの情報が迅速に同学会へ入る仕組みにはなっていないことが挙げられます。
「現在、各機関と連携して災害時に迅速に情報共有ができるシステムを構築しているところです。かなり広域の被害が想定される南海トラフ地震、首都直下型地震などに備え、各都道府県の周産期医療機関や医療スタッフが連携して人佐分さんのお産や避難生活安全にサポートできるようなシステムを整えたいと考えています」
災害時に必要な情報と避難場所の把握を
一方、妊産婦さん向けには、「妊産婦を守る情報共有マニュアル一般・避難所運営者向け」が作成され、日ごろの備え、災害発生直後などに避難所運営者に伝えてほしい情報などがまとめられています。このマニュアルは、東北大学大学院医学系研究科教授の菅原淳一先生を中心に、「産科領域の災害時役割分担、情報共有のあり方検討ワーキンググループ」が作成したものです。
「妊婦さんは、日ごろから指定避難所や最寄りの災害拠点病院がどこなのかを把握し、避難時には、分娩予定日や血液型、分娩予定医療機関など必要な情報を書いたものを携帯することが大切です。妊産婦さんと乳幼児は、優先的に支援が必要な災害弱者に位置付けられています。災害発生時には、必ず、避難所運営者などに妊婦であることを伝え、かかりつけの産科医療機関と連絡を取るようにしてください」と津田先生は強調します。
過去の教訓に学び情報共有や備蓄を
16年の熊本地震などの際には、車中泊する人も多くみられました。しかし、妊婦さんが車中泊をすると、エコノミークラス症候群とも呼ばれる静脈血栓閉塞症(じょうみゃくけっせんへいそくしょう)をおこしたり、ストレスで切迫早産になるリスクが高まったりすることは知っておきましょう。赤ちゃんのためにも無理をせず、早めに支援を求めることが大切になります。
「災害発生時には、学会や小児周産期リエゾン、自治体、DMAT、関連団体が協力して、全力で妊産婦さんを守ります。妊婦さんたちもぜひ、妊婦健診や両親学級のときに、かかりつけの産科医療機関の災害対策を確認して下さい。ご家庭でも災害に備えた情報共有や備蓄をお願いします」
※災害時小児周産期リエゾン / 災害時に小児周産期領域のニーズを把握し、情報収集や医療、保健活動などが円滑に行えるよう、関係機関との調整・マネジメント機能を持つ。