産婦人科ドクターご夫婦 Interview


一人で子育てはできない。周囲のさまざまなものの力を借りましょう。

父親も積極的に責任をもって子育てに関わることで、楽しみが生まれます

米田哲さんと徳子さんはともに富山大学附属病院産科婦人科に勤める医師。二人の出会いは、徳子さんが初めて配属されたNICU(新生児集中治療室)。哲さんは産婦人科医として新生児医療に携わる、5歳年上の直属の上司でした。

院内では初めて男性の育休を実現

結婚・妊娠したとき徳子さんは大学院生でもあり、第1子の出産予定日直前に論文の修正指示が入るという大変な事態になりました。「出産前の情緒不安定な中で、本当に泣きました。幸い実家が近かったので、産後1カ月ほどで母に子供を頼み、研究室に通いました」(徳子さん)

その後は、保育園に入園するまでの4カ月間を、徳子さんが産休と育休で子供と過ごし、続けて哲さんが、院内でも初の男性の育休を1カ月間取りました。

「結婚した当初は、子どもができたら妻は家に居てもいいと思っていたほどで、子育てに関わる気はあまりなかったのです。しかし、妻が仕事も研究も続けたいなら、そのやる気を応援したいと考えました」(哲さん)

とはいえ、母乳育ちの赤ちゃんをいきなりパパ一人でみるのは、そう容易ではなかったそうです。

「初めて子どもと二人になった日、娘は全く哺乳瓶を受け付けず、空腹なのに2時間泣き続け、そのまま寝てしまいました。目を覚ますと再び泣き出し、やっと飲んでくれたのは4時間後でした」(哲さん)

当時を振り返って哲さんは「仕事をしている方がどれだけ楽かと何度も思いましたよ」と笑います。ここから、二人の共同育児が始まったといえるでしょう。3年後の第2子の出産では、哲さんは医局長としてより忙しい立場になり、徳子さんが6カ月間の育休を取りました。二人の子どもたちは病院の院内保育園と学童保育に通い、現在は小学6年(長女)と小3(長男)の子育て真っ最中です。

「『今、できる人ができることをする』というやり方で家事や育児を分担してきました。互いに当直勤務もあるので、延長保育や実家の両親の手も借りて、何とかやっています」(徳子さん)

哲さんは釣りが趣味で、釣った魚の調理も楽しみます。「もともと料理は全くできなかったのですが今では子どもたちから『おかわりある?』と言われるのが楽しみです」(哲さん)

子育ての楽しみとつらさから「命の尊さ」を実感

子育てを経験したことで、哲さんは仕事面でも多くのものを得たといいます。「妊婦さんの心情は特別で、『赤ちゃんが少し小さいかな』という一言ですら、後々まで心に傷を残すこともあります。医師として心に寄り添った対応をするにはどうしたらいいか。命の尊さや子どもへの愛を、子育ての中で学んだことは大きいですね」(哲さん)

2020年春、徳子さんは単身カナダに留学し、現地での共同研究や学会出席などで、1ヶ月半ほど滞在しました。

「子どもと1カ月も離れるのは勇気のいることで、昔の自分では考えらない。でも、子どもや家族を、出来ない理由にはしたくないので、周囲の協力も得て実現しようと思いました」(徳子さん)

ちょうど新型コロナウイルスの感染拡大で休校となったため、哲さんは子どもたちに朝食を食べさせ、昼食を作って仕事に向かっていたそう。このように、協力し合って互いのキャリアを支えてきた二人だけに、患者さんの育児環境が気にかかり、話を聞く事は多いそうです。

「家族の形はそれぞれですが、子どもは二人の宝物です。積極的に関わることには大変さもありますが、楽しみも増すと伝えたい」(哲さん)

「 誰かに頼むことに負い目を感じてしまう女性はまだ多いかもしれません。でも特に産後は、頑張りすぎると夫婦の危機にもつながります。こだわりだしたらきりがないので、親や友人に助けてもらったり、家事サービスや便利な家電などを上手に使ったりして乗り切って 」(徳子さん)