その子なりの成長をあせらずに見守って


小さく生まれた赤ちゃんのママへ

小さい赤ちゃんは10人に1人
合併症や後遺症に要注意

生まれたときの体重が2500g未満の赤ちゃん(以下「小さい赤ちゃん」)を、医学的には「低出生体重児」と呼びます。出生体重は、赤ちゃんの健康状態を知る上で、とても重要な指標です。その他、出生時の妊娠週数(正期産の37~41週が正常範囲)も手がかりになりますが、日本のように正確な妊娠週数を把握できる国は少ないため、出生体重が世界的な健康指標となっています。

現在、日本の赤ちゃんの平均出生体重は3000g程で、ピークだった1975~80年ごろの3200gよりも、約200g小さくなっています。また、40年前は20人に1人だった小さい赤ちゃんの割合は、10人に1人と倍増しています。その主な理由としては、①早産が増えていること②若い女性のやせ傾向と妊娠中の低栄養③出産年齢の高齢化による合併症の増加④不妊治療の普及で多胎妊娠(主に双子)が増えたこと――などが挙げられます。

特に心配なのは1500g未満で生まれた「極低出生体重児」と呼ばれる赤ちゃんで、呼吸や体温、脳、目、腸などの機能に問題が起こる事があります。また将来、多動症などの神経学的後遺症があらわれたり、腎臓の機能不全から高血圧症を発症したりすることもあります。
※ADHD(多動性症候群)

NICUに入院中は声かけやスキンシップを心がけよう

生まれてすぐに高度な医療ケアが必要になった赤ちゃんは、「新生児集中治療室」(NICU) に入院し、「保育器」の中ですごします。保育器の中は常に一定の温度・湿度に保たれ、お母さんのおなかにいたときと同様の環境がつくられています。また、感染防止のために、ほこりや最近の侵入を防ぐ対策を取られています。

赤ちゃんがNICUに入院している間、お母さん、お父さんはどのように関わったらよいか戸惑うかもしれませんが、特別なことは何もありません。母乳を届けに来たときなどには、赤ちゃんの顔を見て優しく話しかけたり、肌に触れたりしてあげてください。一緒にいられる時間は短くても、赤ちゃんには両親の声やぬくもりが伝わります。会って触れ合うことで、親子の絆が育まれます。

NICUでは、看護師さんたちが、お母さんの代役を務めています。赤ちゃんが母乳やミルクをどれだけ飲んだか、どんな風に手足を動かしたかなど、日々の様子を交換ノートに書き留めて、お母さん、おとお産にお知らせしています。

お母さんは自分を責めないで不安や心配事は何でも相談を

赤ちゃんの体重が順調に増え、呼吸状態や全身状態がよくなれば、いよいよ退院です。病院から自宅へと環境が大きく変化するため、赤ちゃんはしばらく落ち着かないでしょう。「今はそういう時期」と、おおらかに受け止めてください。最も大切なのは、感染予防です。必要なワクチンは、決められた時期に必ず接種しましょう。赤ちゃんの筋肉や関節の硬さがみられる場合は、リハビリを始めましょう。

小さい赤ちゃんのお母さんは、「私のせいで低体重になったのでは?」と、自分を責めてしまいがちです。でも、赤ちゃんが低体重になる原因は不明なことも多いのです。直立歩行で精神的なストレスも多い人類に、一定の割合で早産が起こるのは、避けられないことです。自分を責める必要はありません。NICUには臨床心理士4がいて、お母さん、お父さんの精神的なサポートをしています。気分の落ち込みや不安、つらい気持ちなど、なんでも遠慮なくお話しください。産後2週間健診、1カ月健診の機会に相談してもよいでしょう。

早産が想定されても前向きに急がずマイペースを維持して

疾患のために早産が想定される妊婦さんには、「妊娠32週(平均体重1500g超)まで妊娠が維持できれば100点満点ですから、そこを目指しましょう。」「35週までもてば120点ですよ」とお話しています。すると、「がんばります!」笑顔が返ってきます。小さく生まれても立派に育った赤ちゃんは大勢います。そのような症例を、たくさん紹介するようにしています。

小さく生まれた赤ちゃんには、その子に合った成長のスピードがあります。他のお子さんに急いで追い付こうと多量のカロリーを摂取すると、体に負担がかかり、将来、心臓病や高血圧などの生活習慣病にかかるリスクが高まります。あまりあせらず、周囲と比べず、その子なりのペースで成長できるように見守ってあげてほしいと思います。