流産の予防や不育症の治療はできるの?


大半の流産は、妊娠12週未満に胎児の染色体異常原因で起こります。


超音波検査で妊娠が確認された後、妊娠22週に達する前委に妊娠が終了してしまうことを流産といいます。ほとんどの流産は妊娠12週未満に起こる「早期流産」で、その大部分は赤ちゃんの染色体の異常が原因で起こります。早期流産になるかどうかは受精してからの早い段階で決まっている場合が多く、残念ながらそれを防ぐことはできません。

受精卵の染色体異常の発生頻度に最も影響するのは、妊婦さんの年齢です。早期流産の頻度は妊婦さんが20代では10%程度ですが、35~39歳では約30%、40歳以上になると40~50%になります。そのため、晩婚化、晩産化が進んだ現代では、多くの女性が早期流産を経験しており、流産は決してまれなことではありません。

一方、妊娠12週以降に起こる「後期流産」は、早く気付けば防げる場合があります。その原因の一つが、臨月になる前に子宮口(子宮頸管)が開いてきてしまう「頸管無力症」です。頸管無力症だとわかったときには、子宮頸管(しきゅうけいかん)を縛って開かないようにする「頸管縫縮術(けいかんほうしゅくじゅつ)」の実施を検討します。

また、後期御流産の原因になりやすいのが細菌感染です。妊娠中の細菌感染は、膣の中にいる雑菌が子宮の中に入り込んでしまったり、リステリア菌に感染したりすることなどで起こります。この菌は冷蔵庫内でも増えるので、長期間冷蔵保存していた食品を非加熱で食べることは妊婦さんには危険となります。

抗リン脂質抗体症候群など原因のある不育症治療できます

2回流産を繰り返すことを「反復流産」、3回以上流産を経験することを「習慣流産」と呼びます。また、日本では、妊娠は成立するけれども2回以上流産や死産を経験したり、おなかの中で胎児が順調に育たなかったりする状態を「不育症」といいます。なお、妊娠検査薬で妊娠反応は出たものの、超音波検査で赤ちゃんのはいった胎嚢が確認される前に妊娠が終了した場合は「生化学的妊娠」と呼び、これは原則としては流産回数に数えないことになっています。

不育症の65%は原因が不明の偶発的流産です。原因が分かっているものの中で最も知られているのが抗リン脂質抗体症候群です。この症候群は、抗リン脂質抗体という自分の体や胎盤に有害な後退により脳梗塞(のうこうそく)や肺塞栓症 (はいそくせんしょう)、流死産を起こしやすくなる病態です。低用量アスピリンと抗凝固薬のヘパリンで治療します。また、不育症で体外受精を希望していて、夫婦どちらかの染色体変化が確認される場合には、着床前診断で正常な受精卵のみを胚移植する方法があります。生命倫理的視点も考慮しながら、現在、大学病院や生殖補助医療機関など全国157施設で特別臨床研究が行われています。ただし、この方法で流産率を減らすことができますが、最終的に出産に至る可能性を高められるかは検討中です。

さらに、子宮の中に中隔と呼ばれる壁があるなど子宮形態異常が不育症の原因になっている場合には、手術を検討します。甲状腺の異常がある方はその治療が必要です。

妊娠12週以降に、出血おなかの張りなどの症状があったら産科連絡を。

一度でも流産を経験すると落ち込む女性が多いのですが、自分を責める必要はありません。前述のように流産回数が特に多くなければ、流産の原因は受精卵に生じる偶発的な染色体異常である場合が多く、妊婦さんの動きすぎといった生活方法に原因があるわけではないのです。妊娠中は、いわゆるエコノミークラス症候群と呼ばれる廃血栓塞栓症(はいけっせんせんそくしょう)を起こしやすいので、安静にしすぎず、適度に体を動かすことが重要です。

妊娠中の食生活についても前述のリステリア菌や生ハムを含めた非加熱の肉類によるトキソプラズマの感染に注意する以外は、通常通りで大丈夫です。ただし、妊娠12週以降の流産は防げる可能性があるので、膣からの出血、おりものが多い、おなかが重いなど、気になる症状があったら、かかりつけの産婦人科へ連絡し、必要に応じて受診しましょう。「流産の後、気持ちの整理がつかない」「不育症」ではないかと心配な方は流産の回数に関わらず、不育症専門外来でカウンセリングを受けてみるとよいでしょう。

不育症のリスク因子を調べる検査には、血液検査、染色体検査などがあります。流産を繰り返している方は、できるだけ早く不育症のリスク因子を調べる検査を受け、次の妊娠に向けた対策を練ることをお勧めします。原因がある不育症、リスク因子に応じた治療を検討します。

リスク因子がない場合には次回以降の妊娠で最終的に出産できる可能性が7割以上であることも知っておいていただければと思います。