妊婦さんのための「新型コロナウイルス対策」教室<1限目>


コロナ下でママたちが抱えるリスクとは。

緊急事態宣言や自主的な外出自粛により新しい生活様式が広がっていますが、ママたちが気をつけることはありますか?

大前提として新型コロナウイルスの感染リスクがありますが、特にママたちに注意していただきたいのが「産後うつ」ですね。筑波大学の松島みどり准教授の調査によると、出産後1年未満の母親のうち、コロナ下において産後うつの可能性がある人が、速報値の集計でおよそ24%に上ったそうです。つまり、4人に1人は産後うつを発症しているということ。この数字は、コロナ以前の調査結果と比べて倍以上であり、産後うつが急増しているといえるでしょう。

その要因は、新型コロナウイルスの影響で、人と触れ合う機会や外出する機会が極端に少なくなったこと、また収入の落ち込みなどの経済的な不安もあると考えられています。感染予防だけでなく、ママたちのメンタルヘルスにも細心の注意を払っていく必要があるのです。

そもそも産後うつとは何でしょう?

産後うつとは、出産後に発症するうつ状態のこと。妊娠中や出産直後のママが情緒不安状態に陥る「マタニティーブルーズ」と比べ、出産後2~3か月をピークに症状が表れるのが特徴です。中には、数カ月後や1年後に発症する場合もあります。症状は人それぞれですが、主に気分の落ち込みやイライラするなどの情緒不安のほか、不眠、食欲の減衰、何をしても楽しむことができなくなる、ネガティブ思考などの状態が表れます。

一般的なうつ病と異なるのは、発症する原因が定かではないこと。過度なストレスや環境の変化といった何か一つの要因に起因するのではなく、産後のホルモンバランスの崩れによって、ママの脳がうまく機能しなくなっている状態です。ホルモンバランスの乱れは、産後のママであれば当たり前に起こる体の変化。つまり、誰でも発症する可能性があるのが産後うつなのです。

産後うつを発症すると、どんな影響があるのでしょうか。

赤ちゃんのおむつを替えることができない、食事を用意することができない、部屋を片付けることができない……など、まずは育児ができなくなります。さらには、人に会って話すことも嫌になるので産後の1ヵ月健診に行かないなど、自宅に籠もる状態が続きます。中には「ボンディング障害」といって赤ちゃんに対する感情が欠如し、我が子が可愛く思えなくなり、子どもの存在を拒絶してしまう人もいます。

更に私たちが理解しておかないといけないのは、産後うつは育児放棄を引き起こすだけではなく、ママ自身の自殺につながるリスクがあること。2005~14年の東京都の調査によると、妊産婦10万人のうち約8.7人が自殺しているというデータもあります。また、実は産後1年未満の妊産婦の死因で最も多いのは自殺なのです。驚くべきことに医療技術が進化した昨今、出産のリスクよりも産後うつによる死亡リスクの方が高くなっています。産後うつが、いかに妊産婦さんに身近で危険なものであるか、理解しておくことが大切です。