妊産婦さんのための「妊娠糖尿病」と「妊娠高血圧症候群」教室


妊娠中にかかりやすい病気として「妊娠糖尿病」と「妊娠高血圧症候群」があります。どちらもママと赤ちゃんの健康に大きな影響を及ぼす可能性があり、予防と治療が不可欠です。実はこれらの病気は、赤ちゃんがママの健康状態を教えてくれる“サイン”でもあります。どんな症状が出るのか、どんなことに気をつければよいのか、国立成育医療研究センターの荒田尚子先生に教えていただきました。


妊娠糖尿病・妊娠高血圧症候群とは何ですか?


■具体的な症状を教えてください。

妊娠糖尿病とは、妊娠中に初めて発症したり見つかったりした、糖尿病に至っていない糖代謝異常です。代謝異常になると空腹時や食後の血糖値が上がり過ぎてしまいます。妊婦さんが妊娠糖尿病となり高血糖の状態が続くと、次に説明する妊娠高血圧症候群の発症や、帝王切開率の上昇、赤ちゃんの過成長や出生体重が4000g以上の巨大児、お産のときに赤ちゃんの肩が引っかかってしまう肩甲難産や新生児低血糖などのリスクが高まります。妊娠糖尿病は、詳しい検査をすれば妊婦さんの約10%が該当する病気で、決してまれなことではありません。
妊娠高血圧症候群とは、妊娠時に高血圧を認める場合を言います。収縮期血圧が140mmHg以上、あるいは拡張期血圧が90mmHg以上、いわゆる「上が140以上または下が90以上」になったときに「高血圧が発症した」と言います。
こちらは約5%の妊婦さんがかかり、重症化すると、けいれん発作、脳出血、肝臓や腎臓の機能障害などを引き起こす可能性があります。早発型と呼ばれる妊娠34週未満の場合は特に注意が必要です。

■どうしたら、かかっていることが分かりますか?

いずれも妊娠してから出産までに定期的に受診する「妊婦健康診査(妊婦健診)」で初めて分かる人が少なくありません。
妊娠初期には、妊娠前から糖尿病を持っている可能性のある人を見つけるため、普通に食事を摂取した状態での血糖値を測定します。初期の血糖値が高くなかった人も、妊娠が進むにつれ血糖を下げるインスリンというホルモンが効きにくくなるため妊娠中期にもう一度チェックを受ける必要があります。中期は、糖分の入った検査用ジュースを飲み血糖を検査する「グルコースチャレンジテスト」を実施。ここで陽性の場合は、さらに精密な検査を行い診断します。
妊娠高血圧症候群の検査の基本は、血圧測定と尿検査による尿中たんぱくの測定です。


おなかの中の一赤ちゃんに影響はありますか?


■どちらも赤ちゃんの将来の健康リスクを上げてしまうかも…

赤ちゃんに対する最も大きな影響の一つは、赤ちゃん自身の将来の体質にマイナスの作用を及ぼす可能性があることです。
妊婦さんが妊娠糖尿病にかかった場合、胎内は高血糖・高栄養の状態になります。赤ちゃんが大きくなりがちで、さらにただ大きくなりやすいだけでなく、例えば胎児エコー検査で観察するとおなか周りだけが大きくなるなど、アンバランスな成長が見られることがあります。
最近の研究によると、妊娠糖尿病の適切な治療を受けなかったママから生まれた赤ちゃんたちの成長過程を追った結果、10歳の時点で、ママが妊娠糖尿病にならなかった場合と比べ肥満傾向にあり、食後の血糖値が高いという結果がはっきり出ています。
妊娠高血圧症候群では、血流が悪くなって赤ちゃんに酸素や栄養がうまく行き渡らず、発育不全が起こることがあります。また、おなかの中での栄養が足りない状態に適応しようとして、少しの栄養で大きくなうとする体になってしまいます。また、腎臓のろ過能を担う構造体の数が少ないまま大人になってしまうため成長してからの糖尿病・高血圧・心筋梗塞などのリスクが高まります。
妊娠中に赤ちゃんが栄養をとりすぎることと、栄養が足りなくなることは一見反対のように見えますが、実は適量の栄養を摂取できないという点では一緒。結局、将来的に赤ちゃんが自分自身で代謝状態のコントロールをすることが苦手になりやすいのです。

■治療はどのように行われますか?

妊娠糖尿病の治療は、血糖値をしっかり管理することが最も大切です。妊娠中は、まず食事療法を行います。食事療法では、妊婦さんと赤ちゃんがともに健康で、食後の高血糖を起こさないように気をつけます。血糖値が一気に上がらないように食事を何回かに分けることが効果的なこともあります。主治医から運動の許可がでれば、運動療法も有効です。それでも管理が十分にできないときには、赤ちゃんに悪影響を与えないインスリン注射を用います。妊娠が進につれ、インスリンの使用量が増えますが、ほとんどの場合産後に中止できるのであまり心配しないで治療を行いましょう。
妊娠高血圧症候群の治療は、安静と入院が中心です。重症の高血圧を認める場合や、たんぱく尿や赤ちゃんの発育不良などを認めた場合は、入院管理を行います。けいれん予防や重症の高血圧に対して薬を用いることがありますが、残念ながら根本的にこの病気を治す方法はまだ見っかっていません。また急激に血圧を下げると赤ちゃんの状態が悪くなることがあり、降圧剤は医師が慎重に使用します。
妊婦さんや赤ちゃんにとって妊娠を続けることが良くないと医師が判断すれば、たとえ赤ちゃんが予定より早く生まれることになっても妊娠を終わらせること、すなわち出産が一番の治療になります。通常、出産後はママの症状は急速に良くなります。ただし一部のママは、出産後も高血圧やたんぱく尿が続くことがあり継続的な治療が大切です。


妊娠中・産後のママが気をつけることは何ですか?


■妊娠糖尿病・妊娠高血圧症候群を防ぐため、妊娠中はどんなことに気をつければよいですか?

どちらもライフスタイルのコントロールに気をってください。ただしコントロールする=体重ばかりに気をつけるということではありません。「必要十分な栄養をバランスよくとる」「塩分をとりすぎない」「鉄・カルシウム・葉酸の欠乏に気をつける」「品数を多くして、早食いをしない」「朝ごはんを抜かない」「適度な運動をしてストレスをためない」といった基本的なことを徹底しましょう。もちろん全部できなくても大丈夫、できることから始めましょう。
ただし、つわりがひどい時期には無理せず食べられる物を口にしてください。また妊娠中に食生活が大きく変わりやすいのが、つわりが落ち着く時期です。食べられることがうれしくなることはよく理解できますが、この時期に、何でもたくさん食べるのではなくて、先ほど説明したように食生活にも気をつけることが、その後の健康維持の大きな助けとなります。
さらに本来であればこうしたライフスタイル整えるということを、妊娠前からやっていただくとスムーズです。これが私たちの推奨している、将来の妊娠を考えながら女性やパートナーが自分たちの生活や健康に向き合う「プレコンセプションケア」という考え方です。

■産後はどんなことに気をつけたらよいでしょうか?

妊娠糖尿病・妊娠高血圧症候群と診断された場合には、今後のママの健康のため、定期的なチェックを行うことが大切です。妊娠糖尿病・妊娠高血圧症候群になったママは、将来糖尿病や高血圧を発症しやすとが分かっています。引き続きライフスタイルに気をつけましょう。特に妊娠前のBMI(※1)が25以上の肥満の場合は、産後の減量が重要です。第2子、第3子を考えている方には、次の妊娠を健やかに迎えるために欠かせないポイントです。
また妊娠糖尿病にかかってしまったママに対し、私たちは母乳育児を勧めています。母乳をあげること
はとても不思議な効果があるんです。まだまだはっきりとした証明がされていない部分も多いのですが、代謝や内臓に良い影響を与えるのでしょうか、母乳のみで赤ちゃんを育てる完全母乳育児を1年間行うと、ママが将来糖尿病になるリスクが約半分に改善するという結果も出ています。
また母乳のみで赤ちゃんを育てる完全母乳育児の場合は、一番多いときで1日約500kcalを消費します。これは10kmのマラソンを走るのと同じぐらいの消費カロリーなので、産後の体重を戻すのにも役立ちます。
そして良い授乳のためには、良い食生活が欠かせません。これもママのライフスタイルコントロールのモチベーションを上げる大きな要因の一つになります。
もちろん心身の状態との兼ね合いで、ミルクを利用して赤ちゃんを育てることにもママの負担を減らせる大きなメリットがあるので、母乳育児でなくても不安になる必要はありません。

※1
BMl…BodyMassIndex。体重と身長から計算される体格指数。体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)で計算する

■妊娠・出産はママの健康を見直す大きなチャンス!

妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候群にかかっていることが分かると、「バラ色のはずだった妊娠ライフがちょっとブルーになってしまった……」と落ち込んでしまうママもきっといるでしょう。でも少し見方を変えて妊娠・出産は自分の健康を見直すチャンスだと思ってほしいです。
女性の一生の中で、妊娠・出産期ほど病院に通い診察を受けることはなかなかありません。実は妊娠適齢期の女性は、健診を受ける機会が中年層や高年層と比べて少ないぐらいです。
さらに病院では栄養士や助産師など専門家のアドバイスをたくさん聞くことができます。病気は赤ちゃんが「ママは将来、糖尿病や高血圧になりやすいから気をつけて」と教えてくれている“サイン”だと思って、ライフスタイルを改善するきっかけにしてください。
もう一つ伝えたいのは「ママの健康を大切にしてほしい」ということ。当たり前のように聞こえますが、出産後のママは自分の健康を、赤ちゃんの後の2番目どころか、パパや他の家族の後の3番目・4番目と後回しにしてしまうことが少なくありません。現代社会では出産してから子供が完全に独り立ちするまでに2年程度かかることもあります。この間にママが健康に過ごすことが大切ですよね。
私は病院に来たパパが少し体重オーバー気味だったり、タバコを吸っていたりすると「ママと一緒に健康になりましょう」とついつい言ってしまいます(笑い)。妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候群と妊娠中に診断されても、糖尿病や高血圧症の予防を行いながら家族みんなで健康で、笑顔で毎日を過ごせるようにしましょう。

Anetis(アネティス) 2020秋号 かかりつけのあ産婦人科を一生のパートナーに より

※こちらは2020年9月時点の情報/記事になります


■ お話をうかがった先生■


荒田尚子 先生

国立成育医療研究センター/周産期・母性診療センター/母性内科 診療部長

1986年広島大学医学部卒業。慶應義塾大学医学部助手(内科学・腎臓内分泌代謝内科)、横浜市立市民病院内科、米国マウントサイナイ医科大学リサーチレジデント、国立成育医療研究センター総合診療部などを経て現職。専門は内分泌・代謝学(特に妊娠に関連した糖尿病、甲状腺領域)、母性内科学。

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