「新型出生前診断(NIPT)」は学会の認定施設でまず相談を


■両親の選択を支援する出生前カウンセリングが重要


妊娠中に、採血だけで胎児の染色体異常を推定できる「新型出生前診断(NIPT)」。
「命の選別につながる」との議論もあることから、日本産科婦人科学会が指針を設け、日本医学会が実施施設を認定しています。
ところが近年、認定を受けずにNIPTを実施する非認定施設が増えており、問題になっています。
NIPTはどのような検査で、なぜ、認定施設で受けたほうがよいのでしょうか。
東京都立墨東病院産婦人科部長の久具宏司先生が解説します。

■安全で精度の高い検査 6年間で7万例以上の実施


「NIPTは、生まれる前の胎児の状態を調べる出生前診断の一つです。血液検査だけで、妊婦さんに身体的なリスクを伴うことなく、胎児の染色体数の異常を推定できるのが特徴で、日本では、2013年4月に開始されました」と、久具先生は説明します。現在普及しているのは、ダウン症候群(21トリソミー)、18トリソミー、13トリソミーという三つの病気(21番染色体、18番染色体、13番染色体がそれぞれ1本多い)について調べる検査です。
「NIPTは、従来から行われてきた母体血清マーカーなどと比べると精度は高いものの、あくまでも病気の可能性を“推定”する検査であり、陽性ではないものを陽性と判定する『偽陽性』が生じることがあります。NIPTを受ける前には、出生前カウンセリングでそういった偽陽性の可能性や、染色体異常の意味、産まない選択をした場合の人工妊娠中絶などについて十分理解したうえで、検査を受けるかどうか判断することが重要です」と久具先生は強調します。
日本産科婦人科学会(日産婦)では、倫理面に配慮して適切にNIPTが行われるように、「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査(NIPT)に関する指針」を提示しました。指針には専門医の常勤やカウンセリングの体制整備といった実施施設の設置要件が定められており、それに基づき、日本医学会が実施施設を認定しています。20年1月現在、認定施設として登録されている医療機関は全国90施設です。
指針に基づいて臨床研究を行う「NIPTコンソーシアム」の報告によると、13年4月~18年3月の6年間に実施されたNIPTは7万2526例。検査を受けた妊婦さんの平均年齢は38.4歳、妊娠週数は13.1週、陽性となったのは1299例でした。
本当に染色体異常があるのかどうか知るためには、羊水検査などの染色体分析によって確定診断を行う必要があります。確定診断を行った1092例のうち本当に陽性だったのは984例で、陽性的中率は90.1%でした。つまり、残りの9.9%は、偽陽性だったということです。ただし、陰性ではないものを陰性と診断する偽陰性率は0.01%と極めてまれです。
NIPTに関しては、非認定施設での実施例の増加が問題になっていることから、厚生労働省が審議会を設置し、実態調査などを行っています。NIPTコンソーシアムの調査では、非認定施設は19年10月1日時点で57施設あり、適切な出生前カウンセリングを行わず、産婦人科医以外の医師が対応しているケースが多いために、妊婦さんが不利益を被った事例が報告されています。

■検査を安心して受けられる「連携施設」を新たに認定へ


日産婦の指針でNIPTの対象とされているのは、「胎児超音波検査(NT検査)や母体血清マーカー検査で胎児の染色体異常が疑われた人」「染色体異常のある子供を妊娠した経験のある人」「高年齢の妊婦さん」などです。
「一般的には対象とはならないケースでも、非常に不安が強い妊婦さんの場合は出生前力ウンセリングを受けていただき、それでも強く希望される場合はNIPTを実施するケースもあります。まずは認定施設で相談してください」と久具先生は話します。
学会の認定施設でのNIPTの受診費用は20万円前後で、出生前カウンセリングと血液検査料、NIPTが陽性だった場合の羊水検査の費用が含まれます。非認定施設では、検査結果が陽性でも郵送で通知されるだけだったリ、確定診断のための羊水検査が受けられなかったりすることも多いので注意しましょう。認定施設では、NIPTの結果が陽性となったときには、産婦人科医と小児科医が連携して心理的サポートや診療を行います。
一方、現在、認定施設が一つもない県があるのも事実です。日産婦は、今後、産婦人科医と小児科医が勤務し臨床遺伝専門医の有資格者がいる基幹施設と連携しながらNIPTを実施する「連携施設」の産婦人科を認定し、妊婦さんたちが安心してNIPTを受けられる実施施設を増やす方針を打ち出しています。NIPTで陽性になった場合は、次に羊水検査を受ける必要があり、その結果が出るまでにはさらに時間がかかリます。NIPTの実施時期は10~18週目くらいが目安です。
「赤ちゃんに先天性異常があるかなど心配なことがあったら、一人で悩まず、身近な産婦人科医に相談し、臨床遺伝専門医のいる認定医療機関を紹介してもらいましょう」と久具先生はアドバイスします。
インターネットでNIPTを検索すると非認定施設が上位に出てきます。ネット上の情報に振り回されないよう注意しましょう。

日本医学会が認定するNIPT実施施設が探せるサイト
jams.med.or.jp/rinshobukai_ghs/facilities.html

Anetis(アネティス) 2020春号 [いのちとくらしのFrontline]より

※こちらは2020年1月時点の情報/記事になります


■ お話をうかがった先生■

久具 宏司先生
久具 宏司先生
(東京都立墨東病院 産婦人科部長)

1982年東京大学医学部卒業。富山医薬大講師、東大附属病院講師、東邦大教授などを経て、2014年より現職。月経異常やホルモン異常などの内分泌疾患を専門とし、生殖医療の倫理的社会的側面についての著述も多い。日本医学会「母体血を用いた出生前遺伝学的検査」施設認定・登録部会部会長を務めた。